中小企業が銀行などの金融機関から融資を受ける際に、会社の代表者が会社の借入金について個人として連帯保証する「経営者保証」が付いていることがあります。
その場合、会社が銀行から1億円を借りており、会社が返済できなくなれば、銀行は保証人である社長個人に返済を求めることができます。
ここで、事業承継やM&Aを行う際に留意しておきたい重要なポイントは、
「会社の株式を譲渡したからといって、旧経営者の経営者保証が自動的に解除されるわけではない」という点です。
そのため、株式を100%売却して会社経営から完全に退いたにもかかわらず、旧経営者だけが会社の借入金を保証し続けるという事態も起こり得るのです。
1.「経営者保証に関するガイドライン」とは
こうした経営者保証が円滑な事業承継の妨げになる可能性があるため、日本商工会議所と全国銀行協会による「経営者保証に関するガイドライン」が策定されています。
このガイドラインでは、金融機関に対して、事業承継の際には既存の保証契約について適切に見直すことを求めています。さらに事業承継に関する特則では、旧経営者と新経営者の双方から保証を取る「二重徴求」は原則として行わないという考え方も示されています。
ただし、ガイドラインがあるからといって、銀行が必ず旧経営者の保証を解除しなければならないわけではありません。
金融機関は、会社の財務内容、返済能力、法人と経営者の資産・経理の分離、情報開示の状況、後継者や買い手企業の信用力などを踏まえて判断します。
したがって、事業承継前から財務基盤を強化し、法人と個人の資産・経理を明確に分離しておくことが重要です。
2.株式譲渡の際に注意すべきこと
M&Aで株式を売却する場合、売り手経営者は株式譲渡契約を締結する前の段階から経営者保証の解除について確認しておくことが重要です。
特に注意してほしのは、「買い手が保証を引き継ぐと言っているから大丈夫」と考えがちなことです。
経営者保証を解除するかどうかを最終的に判断するのは、基本的には保証契約の相手方である金融機関です。
したがって、買い手との株式譲渡契約だけで、「売主の経営者保証を解除する」と定めても、それだけで銀行との保証契約が消滅するわけではありません。
中小企業庁も、M&A成立後に金融機関の審査を受ける形にすると、買い手の信用力などによっては保証が解除されないリスクがあるため、M&A成立前に金融機関へ相談することが重要だとしています。
したがって、売り手側の経営者としては、少なくとも次の点を確認しておく必要があります。
- 自社の借入金のうち、どの融資に自分の個人保証が付いているのか
- 自宅などの個人資産を担保提供していないか
- 株式譲渡後に金融機関が旧経営者の保証を解除する意向があるか
- 買い手側で借換えを行い、旧経営者の保証付き融資を完済できないか
- 株式譲渡契約に「経営者保証の解除」をどのように盛り込むか
- 保証が解除されなかった場合の契約解除や買い手による補償をどう定めるか
実際、「中小M&Aガイドライン」でも、最終契約に定める重要事項として、経営者保証の解除・引継ぎに関する買い手の義務だけでなく、解除されなかった場合の契約解除や補償について定めることが示されています。
3.「株を売って代金を受け取れば終わり」ではない
たとえば、オーナー社長が自社株式を1億円で売却したとします。
ところが会社には銀行借入金が2億円あり、その全額について旧社長が個人保証していたとします。
株式譲渡後に買い手企業の経営状態が悪化し、会社が借入金を返済できなくなった場合、旧社長の保証が解除されていなければ、すでに会社を売却して経営にも関与していない旧社長に対して、銀行から保証債務の履行を求められる可能性があります。
極端なケースでは、
「会社を売って1億円を受け取ったが、後になって2億円の保証債務を請求される」
ということも理論上はあり得るわけです。
だからこそ、経営者保証が残っている会社のM&Aでは、「いくらで株式を売るか」と同じくらい、「いつ、どのように経営者保証を解除するか」が重要なのです。
経営者保証の解除について、売り手側の経営者が実施しておきたいタスクは次のとおりに整理されます。
① M&Aの初期段階で保証・担保の一覧を整理する
② クロージング前に金融機関と協議する
③ 保証解除または借換えの方法を確定する
④ その内容を株式譲渡契約に反映する
⑤ クロージング時に実際に保証解除が完了したことを確認する


