- 国税庁の有識者会議において、自社株(非上場株式)の評価圧縮スキームとして具体的に名指しで問題視されている4つの手法があります。
-
これらは、かつては「有効な節税策」として一部の専門家から推奨されていたものばかりですが、現在では当局から厳しい目を向けられています。
- それぞれの手法の「何が問題とされているのか」を分かりやすく解説します。
1.組織再編やグループ法人税制の利用
(1)スキームの概要
- 事業会社の上に「持株会社(ホールディングス)」を作ったり、100%子会社や孫会社を設立したりして、グループ内で不動産や株式などの資産を移動させる手法です。
- グループ法人税制を利用すれば法人税をかけずに資産を移転できるため、親会社から子会社・孫会社へと資産を移し、子会社側で有利な評価方式(類似業種比準方式など)を意図的に適用させて全体の株価を圧縮します。
(2)どこが問題と指摘されているのか?
- 税務当局が問題視しているのは、「事業上の合理的な目的がない」点です。
- 実質的には100%オーナー一族が支配しており、会社の実態や価値は何も変わっていないにもかかわらず、「評価ルールをハック(悪用)するためだけ」のためにパズルのように組織をいじり、計算上の株価だけを下げている行為ではないかという批判です。
2.多額の借入による不動産の購入
(1)スキームの概要
- 銀行から多額の借入を行い、時価と相続税評価額の差が大きい不動産(タワマンなど)を購入する手法です。
-
借入金(マイナス)が不動産の相続税評価額(プラス)を上回るため、会社の純資産の評価を大きく引き下げることができます。
(2)どこが問題と指摘されているのか?
- 最大の問題は、実質的な租税負担の公平に反するという点です。
- 最高裁の判例でも示されていますが、相続の直前に多額の借入で不動産を買い、相続後に売却するといった行為は「明らかな租税回避行為」と認定されます。
- また、経営的な視点から見て、本業と関係のない不動産を借金で購入することは、会社のキャッシュフローを悪化させます。
- 「節税のために会社の財務体質を痛めつけ、後継者に借金という重荷を背負わせる」という本末転倒な結果を招く点も批判される理由になっています。
3.無議決権株式の大量発行
(1)スキームの概要
- 組織再編などと組み合わせて、経営権(議決権)を持つ普通株式はごく少数にして後継者に渡し、残りの大部分の株式を「議決権のない株式」に変換して現経営者(創業者)が大量に保有し続ける手法です。
(2)どこが問題と指摘されているのか?
- 無議決権株式は「会社の支配権がない」という理由で評価が下がりやすい仕組みを突いたものですが、実態としては「いつでも普通株式に転換できる(または現経営者の影響力が極めて強い)」状態のまま、評価額だけを下げているケースが少なくありません。
- 実質的な支配力や経済的価値を手放していないのに、制度の隙を突いて評価を圧縮している点が「行き過ぎた操作」と指摘されています。
4.株主構成の意図的な操作
(1)スキームの概要
- 親族以外の第三者(従業員持株会や取引先など)に株式を持たせたり、意図的に株主の持ち株割合を調整したりすることで、税務上の「同族株主」から外れるように操作する手法です。これにより、株価が極めて低く算出される特例的な評価方式(配当還元方式)を無理やり適用させようとします。
(2)どこが問題と指摘されているのか?
- 配当還元方式は、本来「会社経営に影響力を持たない、単に配当をもらうだけの少数株主」を守るための特例です。
- しかし、実質的にはオーナー一族が完全に会社を支配しているにもかかわらず、表面上の株主割合だけを操作して「私たちには支配権がありません」と装いつつ、不当に低い株価で株式を移転させる行為は、ルールの趣旨を大きく逸脱していると考えられます。
【事業承継士からのメッセージ:問題の核心と今後の対策】
- 上記4つの「節税対策」に共通する問題の本質は、「会社の本当の価値は下がっていないのに、税務上のルールの隙を突いて『計算結果』だけを意図的に安く見せかけている」という点です。
-
国税庁はこうした行為に対し、「伝家の宝刀」と呼ばれる評価通達6項(著しく不適当と認められる財産の評価は、国税庁長官の指示を受けて評価する)を発動して否認するケースを増やしており、今後はルールそのものを厳格化する方向に動いています。
- 経営者の皆様にお伝えしたいのは、テクニックに頼った過度な節税策(部分最適)は、税務リスクが高いだけでなく、会社の財務や組織を歪め、結果的に後継者を苦しめることになる、ということです。
- これからの事業承継は、「どうやって株価だけを引き下げるか」ではなく、「適正な企業価値を前提としたうえで、いかに会社のお金を守りながら後継者にバトンを渡すか(全体最適)」という王道のアプローチが不可欠になるでしょう。
- そのためにも、事業承継の準備のために必要十分な時間(3年〜5年)を確保されることをお勧めします。


